時間:10:00~18:00
(初日は12:00から/最終日は16:00終了)
アートとケア
間もなく80才に届く身は約束のない無事の中で生きている。無事は我がことのみではない。家族、友人、施設の職員、ご利用者など、まずは身の回りの人たちから、無事を祈りたい世界中の人たちまで無限に拡がる。……そう思う途端に空しさにおそわれ我に還り又前を向く。
この人生は、教員をやりながら、商売をやりながら、介護事業をやりながら銅版画の制作を継続している。自分の主体性が軟弱なために。5年前の個展「赤子の魂」も私なりの純粋経験の表象として主体性の確立を図ったものだ。図録で芸術を自らの生き方、考え方として問うている。これは今も私の芸術の在り方であり、アートとケアの同一性である。
生と死が身近な介護現場から私の作品は生まれている。殊に今から3年前、'肉身'の他界から生まれた「庭の銀河」シリーズは、個展「赤子の魂」以後のコンセプト「いのち・宇宙・魂」の内より創生している作品群である。
いのちも宇宙も動き、流れとしてある。魂はいのちを宿す庭の銀河にあって、小さい固まりにならずに、優しくやわらかく触れ合いながら漂っている。
「形なきものの形を見、声なきものの声を聞く」、これは西田幾多郎の言葉。氏は'肉親'の死や不幸に逢い、人間として堪え難い悲哀から「無」に辿り着き、日本的なる「情の文化」というものを成立させた。「哲学は『驚き』ではなく、深い人生の悲哀から生じる」の言葉は私の制作のバックボーンとなっている。
"世を離れ 人を忘れて 我はただ 己がこころの 奥底に住む"。
西田幾多郎は日常の生活の深淵にあって、事故の根源と実在への探求を続けていたのだ。